読書と歴史民俗
2016年02月10日
イスラム国とは何か/常岡浩介
常岡浩介さんはいつも危険地帯に入り、チェチェンやタリバンなどに拘束されては無事帰還されている超人。日本で一番危険な目に遭っているジャーナリストかもしれない。常に独自の行動を取り、公安にもマークされている。自らがムスリムでもあり、なんとイスラム国の士官に友人がいる。twitter等で見せる人間的な魅力にも惹かれる。 とにかく超面白い人なのである。
この本はとても読みやすい内容で、体系的な知識には結びつかないけれど、現地での体験だからリアリティがある。池内恵さんの「イスラーム国の衝撃」と並行して読んだら面白かった。
ひとつだけ絶対に覚えておくべき知識があるとすれば、現在のシリアで殺戮を繰り返している主体はイスラーム国ではなくアサド政権であるということ。
イスラーム国の暴虐性はアサド政権が自らを正当化するために誇大に宣伝し利用していると言っても過言ではない。
常岡さんには今後も活躍して欲しいのだが、とても心配でもある... どうかご無事で...
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イスラーム国の衝撃 /池内恵
普通の日本人にとってイスラーム国についての基本的な理解は、これ1冊でOKといっていいのではないか。 圧倒的な情報量なのだがとてもわかりやすい。
最も重要なのは、イスラーム国という組織や指導者を軍事攻撃で潰したところで、テロはなくならないということ。
イスラーム国にしろアルカイーダにしろ、それを支えているのは人や組織ではなくて、思想なのだ。
誰かの大号令があるわけではない。ひとつの思想のもとに、世界中で自動的にテロが発生するようになっているのだ。
池内恵さんはfacebookでもフォローしているが、中東に関する知の巨人といってもいい。 (茶目っ気やユーモアもある^^;)
この本は中東を知りたい人がまず最初に読むべき教科書だと思う。特に中高校生に読んでもらいたいと思った。実際、かなり売れているそうである。
ただ、池内さんはイスラム研究者ながらイスラムに対する視線が冷たく感じる。おそらく相容れない好敵手?である中田考さんの本も買ったので読み比べてみたい。
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2016年02月08日
上原善広さんの大ファンで全部読んでます。「日本の路地を旅する」だけでもすべての日本人に読んで欲しいと思う。
新刊「被差別のグルメ」もとても面白かった。これは上原さんが駆け出しのころに書かれた世界中のソウルフード体験記である「被差別の食卓」の続編とも言えるもので、今回は日本国内バージョン。単純なグルメ本としても面白いけれど、今のB級グルメブームと差別の歴史とのつながりがよくわかる。
日本には中世から続く差別があった。そして今も一部の年配者にはそのイメージが残っている。それをタブーとせず、隠さず、オープンにして、過去のものとして、歴史にしてしまうべきだと僕は思う。上原さんの本を読むと差別を民族史として客観視できるようになる。グルメは誰にでもわかりやすいし、その強力な武器になるはずだ。
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2016年02月06日
2016年02月01日
2015年03月02日
2015年01月25日

古本を350円で買ったが3500円の価値はある名著。
根室の高潮のニュースから、昔、北海道一人旅で出会った根室の特攻船を思い出した。
調べてみたがやはりアウトローな世界なのか、WEB上では情報が見つからず、この本に辿り着いた。
前半はソ連に情報を提供する見返りに操業する「レポ船」の活躍に始まり、ベトナム戦争反戦兵士の亡命事件、そして完全にアウトローな「特攻船」に続く。
平和なはずの日本の国境でこんな事が繰り広げられていたのか!とにかくめちゃくちゃ面白い。
後半は歴代政権と外務省の対ソ政策からムネオスキャンダルが中心となり、既知の情報が増えてやや退屈。
2004年頃の発売なのでタイムリーな帯が付いているが、この本の価値は前半にあると思う。
レポ船も特攻船も明らかに密漁なのだが、魚が獲れればどこへでもリスクをおかして行った海洋民族のロマンを感じた。
2000年前には朝鮮半島との海峡は何国人でもない、海人が跋扈していた。人は食うために何だってする。日ソの法治が曖昧な海域で、やれることを全部やろうとした...
そして、現代の日本漁業がいかに遅れているか、斜陽産業になりつつあるかを憂う。
僕は漁民の民俗史として読んだが、北方領土論としても勉強になった。固有の領土とは何だろう?日本にとって最も緊張感の高い国境はここにある。
ロシアは近代になってから何度も戦争してきた相手であり世界屈指の強国であり、中国や北朝鮮とは次元が違うのだと改めて思う。
全編に渡りイデオロギー色が極力避けられ淡々とした記述が良い。文句無しに面白いノンフィクションで超お薦め。
僕が見た1990年夏の特攻船は取り締まりの真っ最中で本当に最後の姿だったらしい。ある意味で歴史の証人になったのだ。
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2014年12月24日

漁業という日本の問題
この本を日本人すべてに読んでもらいたいと思う。世界に類を見ない「焼き畑漁業」を今も続ける日本。ほぼ無規制で獲ったもん勝ち、世界の海を荒らしまくった末に日本の海も砂漠化させつつあるのに産官学一体となって問題を先送りしている。日本漁業を衰退させたのは消費者の魚離れでも燃料高でもなく、無秩序な乱獲による資源の枯渇。つまり日本人はもう魚を獲り尽くしたのだ。これまで疑問に思っていたことが全て氷解する名著。著者の勝川俊雄氏は若干42歳で漁業を愛し日本を変えつつある研究者。論旨は正確でニュートラルでわかりやすく面白く、ひと晩で一気に読めます。ぜひぜひ!
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2014年12月18日
根室には1990年頃に訪れた。北海道1周の自転車旅行だった。いかにも高潮にのまれそうな、街全体が低地で、高い建物がない。真夏でも最高気温が20度以下で寒々として、(行ったことはないけど)サハリンのような独特の雰囲気のあるグレー色の静かな街。ソ連の監視船から逃れるために船外機を3,4器付けて時速80kmで走る異様な姿の花咲ガニ漁船、通称「特攻船」で港は埋め尽くされていた。銃撃も恐れずソ連領海で操業し、見つかったら全速力で逃げるのである。もちろん度々、拿捕されていた。漁港では船を隠す様子もなく、地元で特攻船に関する詳しい話も聴けた。根室では公然の秘密であり、小さな街に大きな利益をもたらす産業として密漁はエスカレートしていた。現行犯でなければ検挙できないため日本国からはほぼ黙認状態で、現在の中国サンゴ漁船と同じ状態だった。調べてみると、ソビエト崩壊後から日・ロ当局による取締まりが厳しくなり、僕が訪れた頃は特攻船最後の時代だったらしい。褒められたものではないが民俗史として貴重なものを見た。また北海道を旅してみたい。
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2014年12月16日

名作中の名作、大宅賞受賞作「日本の路地を旅する」以来の大ファン。地道な取材を少しでも支えたいとの思いから僕には珍しく全て新品(またはkindle版)を購入している。最新作「石の虚塔」は僕の趣味のど真ん中直撃で素晴らしかった。考古学をここまで面白く書けるのは彼しかいない。いきなりあの捏造事件の張本人のインタビューから始まって度肝をぬかれるが、多くの登場人物を丹念に調べ上げ、戦後日本考古学会の光と闇を克明に描き切っている。ものすごい臨場感だが単にセンセーショナルで興味本位な内容ではない。上原さんの眼差しはいつも淡々とニュートラルに人の内面に向かう。少し感傷的な読後感が心地よい。次作も期待してます!!
robertohouse│コメント(0)