読書と歴史民俗

2024年09月05日

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妻が借りてきていた本の中で、鈴木涼美の『ギフテッド』が目に止まった。
夜遅くにふと読み始めたら、あっという間に最後のページまで進んでいた。

物語は母娘の絆や確執を中心に進むが、主人公を通して描かれる群像劇でもあり、またノンフィクション・ドキュメンタリーのようでもある。
(新宿界隈と思われる)街の映像、音、匂いが五感に直接訴えかけてくるようなリアリティ。むしろ街そのものが主人公で、登場人物たちはその街を構成する体液のようなものかもしれない。
特に、主人公が住む裏通りにある雑居ビルの鉄扉と鍵の音の描写をとても気に入った。

明快なストーリー展開や感情移入を楽しみたい人には物足りないかもしれない。新宿という街の空気を多少とも知っていることも必要かもしれない。
自分はもう一度この本を開いて街にどっぷり浸かってみたいし、新たな発見もありそうに思う。好みの音楽を聴くように、何度でも読めそうな作品だ。

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2020年08月24日

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東欧サッカークロニクル

クロアチア・ザグレブに始まり、マケドニア、ルーマニア、リトアニア、グルジア、ウクライナ、アイスランド、キプロスといったサッカー小国のレポートが綴られる。
サッカーそのものよりも、サッカーという共通言語を通して欧州大陸の広さ、深さ、複雑さを感じさせ、全ての国を訪れてみたくなる内容だ。
欧州CL(チャンピオンズリーグ)は予選から楽しくなるし、さらにマイナーなクラブが参加するEL(ヨーロッパリーグ)にも興味が湧く。
(今季はコロナの影響で短期トーナメントでの開催となり、どちらも面白かった!)

中でもモルドヴァ国内に存在する(全く知らなかった!)沿ドニエストルという未承認国家へのアウェイ珍道中編が最高に面白い。
ユーゴ内戦に影響したとも言われるボバンの飛び蹴り事件についても、ボバン本人へのインタビューを行った上で深く考察されている。

各国ごとの短編集になっているが、googlemap等でそれぞれのクラブや街を調べながら読んでいたので、時間がかかってしまった。
サッカーファンはもちろん、欧州の旅行や文化、歴史に興味のある人にもぜひお勧めしたい。














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2020年02月29日



家族で絵本にじいろのさかな の話題になって思い出したのが、ねじめ正一との伝説の名勝負。
双方死力を尽くした手に汗握る激闘。企画も構成も知性に溢れていて、テレビに力があった最後の時代かなと思う。
また読みたくなって、自選 谷川俊太郎詩集 を注文した^ ^ 

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2017年07月25日

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上原善広さんの大ファンだが、これは誰が読んでも面白いと思う。実際、かなり売れているらしい。昭和の大阪にこんな空間が存在していたのか。生々しい人と人のぶつかり合い、音や臭いや空気が強烈に伝わり、どんな映像よりも映像的、しかし絶対に映像化はされないテーマだ。上原善広さんは被差別部落の出身で、ほとんど1人でこのタブーを切り開いてきた。重いテーマを絶妙な距離感で淡々と描くのが魅力だが、この作品は最初から最後まで眼前で見ているような、息をつかせぬダイナミックな活劇である。至高の名作「日本の路地を旅する」とは筆致が対称的でありつつ共に自身のルーツを辿る双子のような作品。実父のことを書いたらこの先どうするのだろうと勝手に心配してしまう。これは大宅賞をもう一度取ってもいいと思う。最高!!


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2017年03月31日

道徳教科書でパン屋を和菓子屋に、アスレチック公園を和楽器店にという修正(忖度?)はあきれる他ないが、日本史の教科書にはずっと根本的な疑問がある。

豪族間の争乱の末、7~8世紀に覇権を取った勢力が自らの正当性を示すために編纂させたのが古事記と日本書紀。それ以前の文字資料は中国大陸側のわずかな記載を除けば極めて少なく、日本の古代史は何もわかっていない。7世紀以前は純粋に科学的な「考古学」の分野なので、歴史教科書においては「不確か」であることを明記し、ロマンあふれるコラム程度に取り扱えば良いと思う。その分の時間を近代史に多く使い、また民俗学や統計学の知見を借りて、権力者だけでなく一般民衆がつくってきた歴史にもっと光を当てるべきだろう。農業や産業、文化の発展と人口推移を骨格として、そこに諸外国との交流関係や時の政治体制を重ね合わせた、ダイナミクスを体感できるような歴史の授業を望む。

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2017年02月19日

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稚子塚古墳と立山連邦。 続きを読む

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2017年02月06日

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間取りの手帖   …伝説の名著をついに入手!
絶版のため古本が凄い値段になってるけど、オークションなどで探せば適正価格でなんとか見つかる。
なぜこんな間取りになったのか、構造や法規その他の原因をプロの視点で想像してしまう(笑

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2016年12月03日

東京藝大は敷地内に自由に入れてしまうので何度か行ったことがあり、独特の雰囲気に憧れを感じていた。最近話題の本書は取材中心の軽い内容でさらっと読める。世の中には実利を考えず好きなことだけを追求する純粋な人たちがいる。ところで建築は工学部の中ではかなり個性的で創造性が求められるが、ファインアーティストに比べたら明らかに「不純」だ。合理性や予算や周辺環境も考慮し、多数の関係者をコントロールし、施主の満足や利益を最大限にしようとする。プロジェクトによって自分を7割出せることもあれば1割のこともある。あえて1割に抑えることでうまくいくケースもある。やはり「不純」だ...7割出せる自分でいなければ1割の人からの依頼も来ないだろうし、好きなことを仕事にしてなんとか食べていけるのは幸せなのだが、純粋になりたいという真の芸術家への憧れはずっと持ち続けるのだろうと思う。

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2016年09月29日


ヒコーキ少年の父の影響か?小学生の頃から戦記物が大好きで、最近読んだこの2冊はとても面白かった。日本の戦闘機乗り名鑑として保存版になる貴重な資料。日系アメリカ人の著者による、英雄譚にならない客観的な記述が良い。戦争初期にもP-40やグラマンF4Fが零戦と互角に戦っていたこと、末期にあっても旧式の隼がP-51を撃墜していたこと、夜戦エースや水上機エースの存在など、ワクワクするものがある。特に陸軍のノモンハン事件のあたりは驚くようなエピソードもあって読み応えがある。自分は20代の頃にパラグライダーで房総の崖から海の上を、トイレを必死で我慢するくらい飛び回っていた時期がある。トンビを上から見下ろす特別な世界だった。ライト兄弟が飛んでから30年かそこらで航空戦力が勝敗を決することになり、飛行機に乗って戦うのは歩兵や海兵とは違う特別なものだったのだろうと感じる。明らかに無謀で馬鹿で罪深い戦争だったが、極東の島国がこうしたハイテク兵器を設計、製造し、使いこなしていたこと自体は否定しなくてもよいと思う。

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2016年08月21日

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暑い日曜日。ダイアナ・クラールを聴きながら「コンビニ人間」を読んだ。こういう話題の本はあまり買わないが題材に社会学的な興味があった。
なかなか面白いし考えさせられるところもあるけれど、ラノベ的というか、芥川賞ってこういう作品でいいんだ〜と思った。

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2016年04月22日

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サンカ社会の研究 三角寛

古本が安くなってきたのでようやく入手。復刻版が出るまでは「幻の研究書」として古書店で10万円以上の値が付いていたそうだ。確かに、当時は「どうしても読みたい」と思わせる本だったのだろう。サンカといえば三角寛  、三角寛といえばサンカ。昭和初期にサンカ小説で一世を風靡した後に表舞台から消え、戦後しばらくして突如として発表された驚愕の研究書。三角寛はこの論文で文学博士号を取ったのだという(文学というところが微妙な扱いだ^^;)。

ただし今となっては、読み進めるのがやや辛い本である。古本が安くなったのは理由がある。そう、これは偽書なのだ。

内容のほとんどが創作だとわかっていても、よくもまあここまで書けたものだと、三角寛の想像力と忍耐力に驚いてしまう。最近の他の研究者による客観情報を知らなければ、信じてしまう人がいても無理はない。全編が(わかる人にはわかる^^;)民明書房みたいなものなのである。いまだにネットで「サンカ」と検索すれば三角寛ワールドが真実として流布されている。何を隠そう僕自身も、初めてサンカに興味を持った10年くらい前には三角寛を起点とする情報のいくつかを信じていたのだ。映画 瀬降り物語 や小説 風の王国(五木寛之) は三角寛の影響下の作品であり、これらの「二次創作」がサンカ像を作っていったことは間違いない。そしてこれらが虚構であることが確実視されるようになったのは、ここ10年以内のことであろう。

本編との対比として、巻末(といってもかなり物量がある)の沖浦和光 による解説が素晴らしい。沖浦氏のサンカ論に僕は全面的に賛成はしないのだが、三角寛作品の虚構性を冷静に指摘している。そして最後に、三角寛の著作権を引き継いた婿養子、三浦大四郎氏によるあとがきが秀逸。養父への複雑な感情が吐露されてなんとも言えず物哀しく味わい深い。この「研究書」は偽書ではあるが、近世の山河に漂泊民が存在したことはれっきとした事実であり、そのことが社会でどのように捻じ曲げられてきたかを知る上で、避けては通れない貴重な資料であると思う。


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2016年04月12日

サンカの村、マタギ、被差別部落などを訪ね歩くルポルタージュ。特にサンカ末裔の取材は貴重だ。サンカの主要な生業とされる箕作りへの差別がまだあることに驚く。徹底して足で稼ぐ一匹狼のような研究者、筒井功 さんの存在そのものが発見だった。ちょっと文体が軽くて印象に残りにくい気もするが、とても読みやすい。他の作品も題材の選択が興味深いのでぜひ読んでみたい。

それにしても宮本常一の忘れられた日本人 は多くの作家や研究者に深く愛され、尊敬されているのだなあと思う。



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2016年04月08日

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つがるそとさんぐんし.....縄文から中世にかけて、ここにもうひとつの日本があった.....長く辺境とされてきた東北の寒村に熱狂をもって迎えられた王朝伝説。日本史を根底から塗り替えるような「大発見」を追うひとりの新聞記者による渾身のルポルタージュ。事件の経緯と壮大さ、そして社会的影響はあの旧石器捏造事件にも似ている。どちらも東北の地から生まれたのは偶然ではないかもしれない。そして実際に「本物」である三内丸山遺跡が発見されたことが、こんな虚構にさえロマンを与えている気がする。400ページを超える長編だが、文のテンポと構成が良く臨場感抜群なので休日が1日あれば一気に読める。歴史考古学マニアでなくとも、ミステリーとして読んでも絶対面白い、超お薦めの1冊。


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2016年03月02日

SMAP問題があったときにWEBで評価が高かったので衝動買い。

実はかなり売れているらしいが、タイトルほど下世話な本ではない。有名なゴシップの真相みたいな話ももちろんあるが、中盤からはそうしたことが起こる構造について、芸能の歴史をじっくり紐解いてゆく。ヤクザが仕切っていた戦前戦後、1950年代の映画全盛期に作られた5社協定というカルテル、時代の変化を先取りしていったナベプロ、バーニング、ジャニーズ、吉本らの栄枯盛衰が淡々と描かれる。全てが真実とは限らないが情報量はたいへん多く、取材はさぞ大変だったろうと思う。

僕はサッカー以外にほとんどTVを観ないし芸能界には疎く興味もないので、民俗史のひとつとして興味深く読んだ。日本のあらゆる産業の根底にある元締め構造が最もわかりやすい形で表れるのが芸能界だ。そして中世以来、賤民の仕事とされてきた芸能への蔑視が今も残っていることを強く感じる。SMAPの会見はまさにそれだった。あれほどの人気がありながら、彼らは人間としての尊厳が完全に無視されているように映った。

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2016年02月13日

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富山県民必携!!県内の古墳がほぼ完璧に網羅!! 
もちろん大好きなマイ・パワースポット稚子塚古墳ほか白岩川古墳群や立山町の藤塚古墳も載っている。
田園地帯にあってひっそり忘れられ整備もされていないが、そこが何か特別な場であると感じられる佇まいに僕は惹かれる。
呉西方面には大物が結構あるので、バイブル片手にいずれ訪れてみたい。海人による環日本海文化を夢想しつつ…

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日本の魚は大丈夫か   漁業は三陸から生まれ変わる / 勝川俊雄

日本の魚資源管理の不備に関しては「漁業という日本の問題」 とかぶる部分が多いが、極めて重要な内容が追加されている。
この本が発刊された3.11直後の時点での放射能と魚の安全性について、勝川氏の冷静な見解が興味深い。
日本では川魚の消費量が多くないせいかあまり言われていないが、海以上に川魚に放射能の影響が強いという論にはとても説得力があると思った。


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2016年02月10日

イスラム国とは何か/常岡浩介

常岡浩介さんはいつも危険地帯に入り、チェチェンやタリバンなどに拘束されては無事帰還されている超人。日本で一番危険な目に遭っているジャーナリストかもしれない。常に独自の行動を取り、公安にもマークされている。自らがムスリムでもあり、なんとイスラム国の士官に友人がいる。twitter等で見せる人間的な魅力にも惹かれる。 とにかく超面白い人なのである。

この本はとても読みやすい内容で、体系的な知識には結びつかないけれど、現地での体験だからリアリティがある。池内恵さんの「イスラーム国の衝撃」と並行して読んだら面白かった。 
ひとつだけ絶対に覚えておくべき知識があるとすれば、現在のシリアで殺戮を繰り返している主体はイスラーム国ではなくアサド政権であるということ。
イスラーム国の暴虐性はアサド政権が自らを正当化するために誇大に宣伝し利用していると言っても過言ではない。

常岡さんには今後も活躍して欲しいのだが、とても心配でもある... どうかご無事で...

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イスラーム国の衝撃 /池内恵

普通の日本人にとってイスラーム国についての基本的な理解は、これ1冊でOKといっていいのではないか。 圧倒的な情報量なのだがとてもわかりやすい。 
最も重要なのは、イスラーム国という組織や指導者を軍事攻撃で潰したところで、テロはなくならないということ。
イスラーム国にしろアルカイーダにしろ、それを支えているのは人や組織ではなくて、思想なのだ。
誰かの大号令があるわけではない。ひとつの思想のもとに、世界中で自動的にテロが発生するようになっているのだ。

池内恵さんはfacebookでもフォローしているが、中東に関する知の巨人といってもいい。 (茶目っ気やユーモアもある^^;)
この本は中東を知りたい人がまず最初に読むべき教科書だと思う。特に中高校生に読んでもらいたいと思った。実際、かなり売れているそうである。
ただ、池内さんはイスラム研究者ながらイスラムに対する視線が冷たく感じる。おそらく相容れない好敵手?である中田考さんの本も買ったので読み比べてみたい。

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2016年02月08日

上原善広さんの大ファンで全部読んでます。「日本の路地を旅する」だけでもすべての日本人に読んで欲しいと思う。

新刊「被差別のグルメ」もとても面白かった。これは上原さんが駆け出しのころに書かれた世界中のソウルフード体験記である「被差別の食卓」の続編とも言えるもので、今回は日本国内バージョン。単純なグルメ本としても面白いけれど、今のB級グルメブームと差別の歴史とのつながりがよくわかる。

日本には中世から続く差別があった。そして今も一部の年配者にはそのイメージが残っている。それをタブーとせず、隠さず、オープンにして、過去のものとして、歴史にしてしまうべきだと僕は思う。上原さんの本を読むと差別を民族史として客観視できるようになる。グルメは誰にでもわかりやすいし、その強力な武器になるはずだ。

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2016年02月06日

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貧民の帝都 / 塩見鮮一郎
塩見鮮一郎氏のファンです。氏の眼差しはいつも丁寧で、とても暖かい。 巻かれた帯のようにセンセーショナルな内容ではなく、江戸末期から明治維新後にいかに階層が分かれたか、そしてそれを救おうとした人々がいたことについて、淡々とリアルに書かれた本。あれから日本の社会は発展したけれど、果たして現代において弱者の救済は進んだのか、見えなく聞こえなくなっているだけではないのかという疑問が強く湧き上がってくる。

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