2013年12月05日
魏志倭人伝の考古学
魏志倭人伝の考古学 佐原 真 著
日本古代史関連の本を読みあさって感じたこと。どれを読んでも消化不良というか、何も結論が得られない。当時の記録がほとんど無いために、どうしてもミステリー調になってしまうのである。古事記や日本書紀にしても、編纂された奈良時代に当時の政治・権力体制がその出自を正当化しようとした創作色が濃い。神話も実話を下書きにしているとは思うが、それを読み解くには推測に推測を重ねざるを得ない。
この本はそうではなく、とても面白かった。
中学の教科書にも出てくる魏志倭人伝は、3世紀の日本についてほぼリアルタイムで書かれた唯一の文書だ。 「騎馬民族は来た?来ない?」では騎馬民族征服王朝説に真っ向から対立した佐原氏だが、ここでは柔らかい筆致で倭人伝を丁寧に読み解いている。
魏志倭人伝には、当時の日本の地理や生活様式、衣食住から邪馬台国その他の国々の権力争いまで、実に浅く幅広く書かれている。佐原氏はこれらの記述を、考古学による実証的な成果と照らし合わせながら淡々と検証、解説していく。静かで地味な本ではあるが、安易な推測やこじつけを排除することで、かえって当時の日本の風景が見えてくる気がした。巻末には魏志倭人伝の原文と口語訳も載っている。古代史探求のバイブルのひとつとして、また入門書として貴重な存在だ。
それにしても不思議なのは、魏志倭人伝にはこんなに具体的な記述があるのに、なぜ5世紀以前の日本の古墳からは、中国製の銅鏡に書かれた漢字以外の文字が発掘されないのか。 鉄器をつくり稲作を行い、大規模な古墳や建築をつくる技術があり、中国大陸とも豊富な交流があったのに、日本には文字が無かったのだろうか。当時の王権や実力者を称えるような言葉を残そうとしなかったのだろうか。僕にとってこれが日本史最大のミステリーだ。騎馬民族征服王朝説ではないにしても、3~4世紀末ごろの日本に何か大きな変化があったことは間違いないと思う。