2013年06月04日
「忘れられた日本人」を読む

宮本常一「忘れられた日本人」を読む 網野善彦著
宮本常一を網野善彦が読み解く!これはエキサイティングだ。
網野氏は事情により短大で教えることになる。ところが高校、大学と教師経験豊富な網野氏にとっても短大は難しい職場で、なかなか授業を聞いてくれなくて苦労したらしい。そこで教材として使用したのが宮本常一の「忘れられた日本人」だったという。これは上手くいって、10年も続いたとのこと。 民俗学初心者の自分がこれを選んだのも正しかったようだ(笑
内容は単なる解説書ではなく、宮本常一をベースとして網野論が展開される。
江戸時代は農民が9割だったというのは誤りで、せいぜい5割しかいなかったという。明治政府の意図的な統計により漁民も兼業の工民も農民に含まれてしまっていた。確かに養蚕や綿花は工業に含むべきだろう。そうした技術的ベースがなければ明治維新後の急速な工業化は実現しなかった。政府は江戸時代がいかに遅れていたかを宣伝し改革を正当化し近代化を推し進めた。 近世の日本では国際的に見ても女性の自立が極めて進んでいた。江戸の刑法は男女平等かやや男性に厳しかった。農村で現金収入を握っていたのは女性だった。明治政府は男性だけに参政権を与え、家父長制を定め、女性だけに姦通罪を作ったのである。被差別民の解放は、同時に与えられていた権利を奪うことでもあった。伝統的と思われている風習の多くが、明治以降に政治的につくられたものではないかという見方は宮本常一と共通している。 宮本常一のテーマだった西日本と東日本の違いについても詳しく解説されている。明治以降の日本は東日本的な価値観でつくられてきた。
網野氏の文章はとても平易でわかりやすく、民俗学に興味がなくても面白いと思う。
そして宮本常一の「忘れられた日本人」はすべての日本人に、日本人のバイブルとして繰り返しお薦めしたい。