2007年03月02日
古典的フルレンジ総括
半年前にアルテックCD408?8Aという20cm同軸フルレンジの音にノックアウトされてから、これまでのスピーカー製作の方針が大きく変わった。
その後JENSEN-P12Nというギター用12インチを使っていろいろ試してきて、かなりのことが掴めてきた。
それまではFOSTEXなどの8?16cm小口径フルレンジでの自作が多かったが、やはりある程度の口径は大切であるということ、そして低音を欲張らない軽く硬く薄いコーン紙の自然な音色が、JAZZをじっくり聴くには一番良いということ。明快な音でありながら、長時間聴いても疲れない。
能率が高く、微小入力にも反応が速く、アンプの音の違いもとてもよくわかる。そして「オーディオ」を意識させずに「音楽」を聴かせてくれるのだ。
設計の古典的なユニットは大変魅力的な音を出すしこれからも使っていきたい。しかし問題点もあって、使いこなす上でいくつかのポイントがある。
1.背圧は最小にすべし
コーンが極めて薄く軽いため、キャビネットによる背圧は大きな負担となり、低域だけでなく中域の出方に大きな影響を及ぼす。 特に小さなバスレフ箱は最悪で、中域が見事に引っ込んでしまう。
平面バッフルか後面開放がベストで、バスレフや密閉でも容積は出来るだけ大きいほうが良いのではないか。 50Hzまでの低域は欲しいから平面バッフルにサブウーハーを足すのも手だが、それも大袈裟だ。
12インチクラスのフルレンジを大型バスレフで使うのが最善ではないだろうか。 JENSEN-P12Nに対して110リットルのバスレフはよく合っている。
2.大音量には向かない
これはアルテックCD308?8Aで気がついた。
ボーカルやギターソロなら馬鹿でかい音でも問題ないのだが、ピアノやベース、オーケストラとなると12インチのP12Nでさえ耐入力が十分ではない。この点ではFOSTEXのFE、FF系のほうがはるかに強い。
フィックスドエッジでストロークが小さいため、低域の大入力がでボイスコイルが揺さぶられるとコーンが大きくたわむのが見える。 そして音量による音質の変化が大きい。 もちろん壊れるわけではないが、音が変調されるのか、大音量では歪感が大きくなり、位相感がぐちゃぐちゃになる。エッジ、ダンパーが硬くコーンのXmax(最大振幅)が小さいことは張りのある繊細な音に貢献していると思うが、大音量に弱いということを体験した。
特にピアノのffに弱いのはこのためだと思う。左手によるパルス性の低音が断続的に入ることで、右手の中高域が歪むのではないか?
大入力に弱いということは結果的に音を遠くに飛ばせないことになる。事実、FE83E×6発の「オベリスク」のほうが聴感上の耐入力は大きい。
JENSENも中音量以下では素晴らしい音であり、普通の部屋では問題ないだろう。50帖のアトリエで7m離れて聴いている僕が異常なのであって、本来は古典ユニットはニアフィールドで聴くべきなのだろう。
3.中高域の共振ピークの処理
古典ユニットはボイスコイル径が小さく、分割振動を利用してピーク&ディップをつくり、高域を延ばしている。 これはこれで魅力でもあるのだが、特定の楽器で刺激感が大きくなる。あらゆる種類の音楽を聴くなら、ネットワークかパライコ、あるいは機械的に吸音するなどして抑える必要がある。LC共振回路で抑えるのが一番効果的だったが、大きなコイルは低域の制動に悪影響をもたらす。
4.中域にクロスオーバーをつくらないこと
フルレンジとはいっても十分な高域は出ないから、現代録音のCDを聴くならツイーターは不可欠だ。しかしこの場合でもクロスオーバー周波数は3?4kHz以上にしたい。
中域にホーンなどのスコーカーを入れて、フルレンジを1kHzくらいでカットすれば歪感は減る。しかし音色の統一はとても難しいし、ネットワークそのものが音質を阻害して位相感がおかしくなる。 良いスコーカーを使い、測定器で追い込めば良くなるだろうが、そうした調整は僕の趣味から外れてくる。 分割振動歪みはあっても音色の自然さを優先したほうが良い。
僕が多くのメーカー製スピーカーで感じる「音色の違和感」は、このクロスオーバーに起因するのだと思う。
中域にホーンを入れるなら、クロス300Hzくらいで使わないと自然な音色は難しいのではないか? こうなると2インチドライバー&巨大なホーンが必要だ。 ウーハーのハイカットに4?5mHのコイルが入るデメリットもあり、マルチアンプに走らざるを得ないだろう。システムが大袈裟になるし、コスト的に僕には無理だ。
5.古典的であっても、駆動力は欲しい
アルテックCD308?8Aは磁気回路が貧弱なのにものすごく能率が高く、張りのある音が出た。しかし低域はどうやっても緩く、抜けてしまう感じだった。
JENSEN-P12Nは大きなアルニコマグネットを搭載しており、低域はとても芯が強く実体感がある。量感は控えめでレンジも伸びていないしゴリッとした低音でもないが、軽く暖かくキレの良い自然な低音は、音量さえ欲張らなければ素晴らしいものがある。 これはやはり強力なマグネットが効いていると思う。
以上の考察からの結論はこうだ。
(あくまで、このだだっ広いアトリエで毎日10時間BGMを聴く僕の趣向だが)
1.低域?中域のバランスを考えると12インチフルレンジが良い
2.出来ればネットワークで切らなくても高域の歪が少ないフルレンジが良い
3.中域にホーンを足すより、フルレンジのグレードアップが良い
(クロスオーバーは4?5kHzで、ツイーターBEYMA-CP21Fを生かした2wayが良い)
4.駆動力が大きく、もう少しストロークのとれる、耐入力のあるフルレンジが良い
さて、そんなものがあるのか? ありそうなんですよ... →続く