2019年10月13日
マルチアンプ始動 QSC PLD4.2 ファーストインプレ

結局、業務用DSP内蔵4chアンプという最もシンプルな方法でやってみることになった。これ1台で、クロスもディレイもEQも自在な2wayマルチが実現する。
問題点から言えば、冷却ファンの騒音が目立ち、残留ノイズも大きめだ。冷却ファンの音は普通のデスクトップPC程度で、小音量では結構気になるレベル。交換や無効化、物理的な遮蔽など色々検討してみたが、高度なPWM制御がされており、難しそうなので諦めた。残留ノイズ(無音状態で聴こえるアンプ固有の雑音)はネットワーク無しで110dBという超高能率のコンプレッションドライバーを使う以上、ある程度はやむを得ない。ハムではなくザーッというホワイトノイズなので不快ではないし、試しにネットワークを通すと激減したが、音もはっきりと劣化した(これはネットワークを排除できるマルチの長所も示している)。大音量を想定したPA用アンプだからこんなものだろうし、狭い部屋で静かに音楽を聴くには向いていない。
しかしそういう欠点を吹き飛ばすほど、マルチの効果と面白さは絶大だった。
クロスオーバーはリスニングと測定によって驚くほど短時間で設定できた。最高48dB/octという急峻なフィルターの効果は驚くべきもので、理論通りスパッと切ってユニットの暴れを完全に抑え込むことができる。肩特性も自在なので、約900Hzで完全にフラットに繋げることができた。大型LCDを見ながらの各種設定の操作性は抜群だ。非常に多機能だが階層構造が無駄なく明確でわかりやすいところはRMEと同様、論理的思考に長けた欧米メーカーらしさを感じる。業務用らしくフェイルセーフも徹底され、様々な保護回路が用意されている。一度配線ミスでショートさせたがエラー警告を出してしっかりと保護してくれた。
音質についてはパッシブ/アクティブの違いだけでなく、アンプそのものが違うから純粋な比較は難しい。 400w×4chという出力は家庭では全く出し切れないが、底なしのパワーを感じる、エネルギッシュで鮮烈、明快な音。ボーカルはリアルで、ベース、ドラムスのドライブ力は高い。ウーハーの高域を完全にカット出来るため粗さはないが、繊細さ、透明感や空気感というよりは、やや圧縮された音圧感でグイグイ押すタイプか。小音量時のS/N問題もあり、どちらかと言えばフュージョンやロック、エレクトリックジャズに向くかもしれない。良質なライブ音源を大音量で聴くとまさに“ライブサウンド”のようだ。
これまでの真空管アンプ+パッシブネットワーク と今回のマルチアンプシステムは、SPケーブルの挿し替えで簡単に切り替えられるようにしている。それぞれに長所・短所があり、完成されたパッシブはマルチのリファレンスになるし、マルチでの検討がネットワーク設計にも役立つだろう。そして何より凄いと思ったのは、パワーマージンが大きくクロスオーバーが自由自在で強力なPEQやディレイもプリセット出来るので、スピーカー設計が自由になることだ。8cmフルレンジ+20cmウーハーで100Hzクロスとか、ラインアレイやオープンバッフルでフラット再生とか、アバンギャルドやパラゴンのようなバスホーンとか、同軸ユニットの最適化とか、もう何でも出来る。実利を取る海外のメーカーやDIYerにDSP利用のユニークなスピーカーが多いのはこういう事なのだ。これはスピーカー自作マニアなら1台持っていて良いと思った。マルチアンプシステムの使いこなし各論については少しずつ書いていきます。